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『自遊人』発刊記念 「未来を変えるソーシャルデザイン」岩佐十良&上田壮一 トークイベント



2018年度グッドデザイン賞審査委員の岩佐十良さんが編集長を務めるライフスタイルマガジン『自遊人』最新号は、日本デザイン振興会が協力を行い、平成時代におけるデザイン界の一つのエポックである「ソーシャルデザイン」を、グッドデザイン賞受賞デザインを中心に特集した特別編集号です。

今年度大賞を受賞した「おてらおやつクラブ」や、ファイナリストの宿泊施設「hanare」の他、「MORIUMIUS」「山名八幡宮」「トーコーキッチン」「B's行善寺」など近年の受賞者インタビューなど、全国各地で展開されるソーシャルデザインの最新事例を多数収録しています。また28ページにわたる「日本におけるソーシャルデザインの軌跡」も掲載。

この発刊を記念して、岩佐編集長、そしてソーシャルデザインのキーマンのお一人でもあるThink the Earthの上田壮一さんをお招きしてトークショーを開催します。上田さんがプロデュースされ、2001年度に受賞した「地球時計wn-1」は、グッドデザイン賞の歴史の中でソーシャルデザインとして初めての受賞デザインといえるものです。

社会の課題を見出し、それを解決する方法の一つとして、注目されている「ソーシャルデザイン」。その考え方、実践手法がなぜ必要となり、これだけ多方面から共感を集める状況になったのかを、参加者のみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

ご参加いただいた方が当日の模様をグラフィックレコーディングしてくださいました。
こちらをご覧ください。


『自遊人』2019年2月号発刊記念
「未来を変えるソーシャルデザイン」岩佐十良&上田壮一 トークイベント

 

◯日時
2019年1月28日(月)19:00-20:30 (受付18:30、閉会後交流会あり)

◯会場
インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
港区赤坂 9-7-1 ミッドタウン・タワー 5 F(東京ミッドタウン・デザインハブ内)

◯出演
上田壮一 クリエイティブディレクター
一般社団法人Think the Earth 理事、2015-2017年度グッドデザイン賞審査委員

岩佐十良 クリエイティブディレクター
株式会社自遊人 代表取締役、2016-2018年度グッドデザイン賞審査委員

◯プログラム
18:30 受付開始
19:00 開会「未来を変えるソーシャルデザイン」発刊経緯と趣旨:岩佐十良
19:15 「ソーシャルデザインこれまでとこれから」:上田壮一&岩佐十良
聞き手:矢島進二(JDP)
20:30 閉会 交流会(参加自由)

◯定員
100名

◯参加費
無料

◯申込方法
お申込はこちら

◯主催
公益財団法人日本デザイン振興会(JDP)、株式会社自遊人

◯プロフィール

上田壮一 Soichi Ueda
クリエイティブディレクター 一般社団法人Think the Earth 理事
1965年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。広告代理店勤務を経て、2000年に株式会社スペースポート、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門』、プラネタリウム映像「いきものがたり」など。多摩美術大学客員教授。

岩佐十良 Toru Iwasa
クリエイティブディレクター 株式会社自遊人 代表取締役
東京都出身。武蔵野美術大学在学中の1989年にデザイン会社を創業し、のちに編集者に転身。2000年、雑誌『自遊人』を創刊。2004年には拠点を東京から新潟・南魚沼に移転。そのライフスタイルが注目され「情熱大陸」などに出演。2014年、新潟県大沢山温泉にオープンした「里山十帖」では、空間から食まで全てをディレクション。シンガポールグッドデザインアワード受賞、グッドデザイン賞BEST100に選出される。

◯参考
雑誌『自遊人』2019年2月号 未来を変える「ソーシャルデザイン」
Think the Earthによる「おてらおやつクラブ」の記事(2018年5月30日掲載)

 

◯岩佐編集長による「エディターズボイス」

【未来を変える「ソーシャルデザイン」】

グッドデザイン賞大賞選出会の翌々日、NHK NEWS WEBにはこんな記事がアップされました。
「平成最後のグッドデザイン 『おてらおやつクラブ』の衝撃」

衝撃が走ったのは、なにもNHKの記者の方だけではないはずです。おそらくグッドデザイン賞受賞展「GOOD DESIGN EXHIBITION 2018」を訪れた、ほぼ全ての人が〝衝撃〟を受けたのではないでしょうか? もしかすると衝撃というよりも「?」マークが頭に浮かんだ方のほうが多かったかもしれません。

実は私がグッドデザイン賞の審査委員を務めるのは今年で3年目になります。担当する「ユニット16」は、有形、無形に関わらず、取り組みや仕組みのデザインを審査する部門。いわゆる「ソーシャルデザイン」や「コミュニティデザイン」といった分野の作品が多数、集まってきます。『おてらおやつクラブ』もユニット16で審査した作品でしたが、実は私自身も、まさか大賞に選出されるとは想像していなかったのです。

大賞選出の方法はグッドデザイン賞のウェブサイトに詳しく書かれていますが、簡単に言うと、大賞は「投票」によって決まります。しかも審査委員だけではなく、グッドデザイン賞受賞者、さらに一般来場者まで含めての投票で。つまり今の日本の民意を象徴する作品が選ばれる仕組みなのですが、そこで大賞になったのが、貧困問題解決に向けてのお寺の活動『おてらおやつクラブ』だったのです。

これを「ソーシャルデザインの時代なんだね」と言うのは簡単です。重要なのはその背景を読み解き、これからの日本が向かう方向を見定めること。というより、この『おてらおやつクラブ』の大賞受賞は、「足もとをもう一度しっかり見直してみようよ」という強いメッセージなのかもしれません。

私事でいうならば、東京・日本橋にあった会社を新潟・南魚沼に移して15年。ずいぶんと人々の価値観は変わりました。移転を決めた時、大勢は「なぜ、東京での成功を捨てるのか?」という意見でした。そして時は流れ「先見の明があったね」と言われるようになり、いつからか「羨ましい」に変わりました。

東京時代は毎日が忙しく、「美しい」と感じる瞬間もほとんどありませんでした。感じるにしてもクルマのショールームやデザイン系ショップなどで見た、格好いい「モノ」。ところが新潟では毎日の何気ない風景に感動し、人々と交わす何気ない会話に心が和みます。

2018年。日経平均株価は1991年以来の高値を記録し、景気の波はいざなぎ景気を超え、戦後二番目の長さに突入したと伝えられています。バブル後、ほとんど変わらなかった東京の景色も、ここ数年で大きく変わりました。

その一方で、これほどまでに「ソーシャルデザイン」や「コミュニティデザイン」が注目されるのはなぜなのでしょう。それはすなわち「経済だけでは豊かさを享受できない社会」が訪れているとも言えます。そして「デザインの力」や「クリエイティブの力」が、〝人間性とは何なのか〟という、本質的な問いと向き合っていることも間違いありません。

ところで、日本で唯一、地方から発信する全国誌『自遊人』としては、皆さんにぜひ考えていただきたいテーマがあります。それはやはり地方の未来。今、地方は東京以上に難しい局面を迎えています。「美しさ」は日常生活にありますが、今後、経済的格差は東京などの大都市とは開く一方です。

東京(都市)に住む人々の中には、「経済の中心は東京(都市)にあり、地方は東京のおかげで成り立っている」と思っている人が少なくありません。恐れずに言うならば私も以前はそう思っていました。「マスコミも、クリエイティブも、様々な企業の本社も東京にあり、そこでの経済活動によって生まれた付加価値や、納税によって整備されたインフラで地方が成り立っている」と。でも、それが大きな間違いであることを知ったのは、移住後すぐのことです。

新潟・魚沼地域はもちろん、地方では限界集落や耕作放棄地、シャッター商店街が深刻な問題になっていましたが、関連データを調べているうちにおかしなことに気がつきました。出生率は東京よりはるかに高く、子供の割合も比較的多いのに、生産年齢人口が少ないのです。つまり地方における最大の問題は、成人前後の若年層が東京などの都市部へ吸い取られてしまうこと。社会の根幹となる人間が生まれているのはむしろ地方であり、「東京(都市)は地方のおかげで成り立っている」のです。

今回は「ソーシャルデザイン」という言葉の生みの親である、『公益財団法人 日本デザイン振興会』の矢島進二さんの協力を得て、特集を作ることができました。

そしてこれは、私はグッドデザイン賞審査委員の修了制作でもあります。(ワンクール3年なので)

もうすぐ日本は新しい時代を迎えます。持続的な発展を遂げながらも〝人間が主役〟の社会を実現するにはどうしたらいいのか、そのヒントを求めて取材を重ねました。取材先はグッドデザイン賞の受賞作もあれば、そうでないものもあります。でもいずれにしても「ソーシャルデザイン」の事例であることは間違いありません。

写真を眺めるだけでは何もわからない特集です。ぜひ何度も読み返していただければ幸いです。そして次の時代を皆さんと一緒に切り拓くことができたなら、これほど嬉しいことはありません。

自遊人編集長 岩佐十良